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不動産オーナーに発生しやすい法律問題

この記事では、不動産オーナーに起こりやすいトラブルや法律問題についてご紹介いたします。

認知症などの判断能力の低下による不都合

不動産オーナーの方には元気な方が多いですから、

  • 自分は大丈夫
  • うちの親父は問題ないよ

と思っている方が多いのではないでしょうか。

しかし、「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計によると、 2020年の65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7% であり、約602万人に上ります。つまり、6人に1人程度が認知症有病者の時代です。認知症のリスクは、もはや他人事ではなくなっているといえます。

それでは、認知症などにより判断能力が低下した場合、どのような問題が起こりうるのでしょうか。

新たな契約ができない!

例えばアパートやマンション、テナント物件をお持ちである場合、新たな入居者と賃貸借契約を締結する必要があります。しかし、この契約をする大前提として、その不動産の所有者がきちんとした判断能力を有していなければなりません。

判断能力が低下していると、かりに契約書にハンコを押しても、その契約が法律的に無効となってしまう場合があります。

融資を受けることができない!

これも新たな契約ができない場合の一場面ですが、融資を受けて物件の修繕や改良を行おうとしても、銀行は判断能力が低下している方に対して融資をすることはありません。そのため、物件が老朽化して大掛かりな修繕が必要な状態になってしまっても、何も対策をとることができないリスクがありうるのです。

適切な金銭管理ができない!

不動産オーナーは、賃料収入を得るだけでなく、入居者の募集や賃貸借契約の締結、修繕の実施などの賃借人の対応、固定資産税などの税金の支払い、確定申告など様々が業務を行わなければなりません。

不動産オーナーの方は、それぞれのコストなどを適切に計算をして、収益を維持しています。

しかし、判断能力が低下してしまうと、金銭管理能力が低下し、適切な収益管理がうまくできなくなる場合があります。また、必要な事柄を忘れてしまったり、悪い場合には第三者に騙されてしまったりして、取り返しのつかない事態が生じかねません。

ご家族であっても不動産オーナーに代わって対応することができない!

このようなリスクの説明をすると、「家族が代わりに対応すればいいのではないか」と思われる方もいらっしゃるかと思います。

しかし、不動産オーナーご本人が、たとえ家族であっても自分以外の第三者に対して必要な事項を任せるためには、法律上、「代理権」を与えなければなりません。そして、この代理権を与える前提として、判断能力が備わっていなければならないのです。

かりに、適法な代理権がないまま、ご本人に代わって契約をしても、法律上無効となってしまいます(「無権代理」といいます)。

そのため、ご家族であったとしても、判断能力がなくなってしまった場合には、代わりに対応することができなくなってしまうのです。

亡くなった後の家族同士での遺産の分け方のトラブル

不動産オーナーは、自宅の土地建物以外に、複数の物件を所有されています。不動産オーナーが亡くなった後、「誰がどの不動産を取得するのか」という点で、家族同士でトラブルに発展しやすくなります。

「法定相続分によって分ければよい」と思われるかもしれませんが、話はそう単純ではありません。

不動産オーナーである父が死亡し、相続人が妻、長男、長女の事案を想定します。この場合、法定相続分は、妻1/2、長男1/4、長女1/4です。他方で、物件が、5000万円の自宅の他に、1億円の物件が1つ、8000万円の物件が1つあったとします。

これをどのように分ければよいでしょうか?

妻は自宅に住み続けたいという希望がある場合、自宅を取得します。しかし、残りの物件を複数人で分けてしまうと、「共有」という問題が発生するため、複雑です。また、相続人によっては利回りの良い物件を取得したという要望もあるはずです。

このように、物件を分けるということは、簡単に解決できる問題はないのです。

多額の相続税の発生

不動産は一つあたりの評価額が大きくなりますし、賃貸物件の場合、自分で使っている場合に比べて評価額が高くなります。

相続税対策のためにアパートを建築される方もいらっしゃいますが、簡単に相続税がゼロになるというわけではありません。

また、最近では、不動産の評価方法について、路線価を用いた申告を否定する旨の最高裁判所の判決も注目を集めました。相続税対策も今後はより一層慎重な対応が必要となります。

この相続税は相続人が現金で納めるのが基本ですが、いくら不動産をたくさん持っていても、この現金がなければ相続人は相続税を支払うことができないのです。

不動産オーナーが検討したい「争族」対策

不動産オーナーにとって家族が不動産の分け方でもめるのは避けたいところです。そこで、以下のような対策を検討する必要があります。

遺言書の作成

まずご検討いただきたいことは、遺言書の作成です。

家族間で相続トラブルが発生する原因の一つに、亡くなった方がどのように遺産を分けたいのかという想いが反映されていない、残されたご家族に十分に伝わっていないということがあります。

不動産オーナー自身が誰にどの物件を引き継いでもらいたいのかなどを明確にすることで、この家族間のトラブル発生リスクを最小限に抑えることが期待できます。

遺言作成の必要性について

※別ページに移動します。

生命保険の活用

遺言書を作成するだけでは十分ではない場合もあります。なぜなら、遺言書によっても侵害してはいけない「遺留分」があるためです。

例えば、妻、長男、長女がいる事案において、「長男に全ての遺産を相続させる」という遺言を作成したとします。この場合、長女は1/8の遺留分を持っていますから、長男に対して遺留分侵害額請求をすることが可能です。

これは法律上の権利ですから、1/8に相当する現金を長女に渡す必要があります。

この遺留分に相当する現金を確保するため、生命保険を活用することが考えられます。

不動産オーナーを被保険者とし、受取人を長男とする生命保険を掛けておけば、被相続人死亡後、長男が単独で生命保険会社に対して保険金の支払いを請求することができます。これにより遺留分の請求に対応することができます。

不動産オーナーが検討したい相続税対策

生命保険の活用

相続税の納税は、相続発生(つまり被相続人の死亡)から10ヶ月以内にしなければなりません。それまでに相続税相当の現金を用意しなければならないのです。

あらかじめ不動産オーナーが相続税相当の預貯金を用意しておいたとしても、遺産分割協議がまとまらなければ、原則として相続人が預貯金を引き出すことができません。

そこで、生命保険で納税資金を確保するという手段を検討する必要があります。

不動産オーナーを被保険者とする生命保険を掛けておくことで、被相続人死亡後、生命保険金の受取人に指定されている者が、単独で生命保険会社に対して保険金の支払いを請求することができます。しかも、生命保険会社の対応は早いので、迅速に納税資金を確保することができます。

入居率を上げる

貸家、賃貸アパート、賃貸マンションといった賃貸物件の土地を「貸家建付地」といいます。この評価方法は下記の算式により計算します。

貸家建付地 評価の計算式

自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合)

この「賃貸割合」というのが、入居率のことですから、入居率によって評価額が変わることになります。

簡単にいうと、空室部分がある場合には、賃貸割合が下がってしまうため、貸家建付地としての評価額が上がることになります。

したがって、入居率を上げることが不動産の評価額を下げるためには重要です。

資産を法人化する

不動産オーナーが所有している財産が多ければ多いほど、相続税の評価額が上り、相続税が高くなります。

そこで、法人が財産を所有すれば、個人が所有する財産を減らすことができます。法人と個人とを区別し、財産を分散するということです。

法人の財産はあくまで法人のものですから、不動産オーナー個人が代表であったとしても、その個人が死亡しても相続税には影響がありません。この場合影響するのは、不動産オーナーが保有している法人(株式会社を想定)の株式です。法人には相続という概念がありませんので、相続税の課税対象にはならないのです。

金融機関への相談

上述のとおり相続税は現金が必要です。どうしても納税資金を確保できない場合などに備え、あらかじめ金融機関に相談をしておくことも重要です。必要に応じて、不動産に担保を設定した上で融資を受けて納税資金を確保するという選択肢もあり得ます。

不動産オーナーが検討したい認知症対策

家族信託(民事信託)の活用

民事信託とは、あらかじめ受託者との間で信託契約をかわし、財産管理などを委託するという制度です。

後見制度よりも自由度が高く、柔軟な設計が可能です。不動産オーナーの認知症対策としては非常に有効です。たとえば、テナント物件を所有している場合、その賃料の管理だけでなく、修繕や借り入れの権限を委託することもできます。

また、不動産オーナーがご存命のうちは、賃料収入から生活費を受け取ることような契約内容とすることも可能です。さらには、不動産オーナーご本人が亡くなった後は配偶者が賃料を受け取れるようにするなど、死後も含めた設計をすることも可能です。

ただし、民事信託の契約書作成は非常に高度で専門的ですので、ご自分でやろうとすることは困難です。そのため、必ず専門家である弁護士に依頼して作り込んでいく必要があります。

当事務所は、相続紛争だけではなく、生前の財産管理にも力を入れており、家族信託専門士の資格を有する弁護士も在籍しております。

また、細かいお話ではありますが、家族信託では予期せぬ課税がされることのないように税務の知識も必要となります。当事務所は関連する税理士事務所が併設されており、税務の面でもぬかりのないチェックを行うことができます。

家族信託については、ぜひ当事務所にご相談下さい。

任意後見制度の活用

任意後見制度とは、あらかじめ任意後見人を引き受けてくれる人(「任意後見受託者」といいます)と任意後見契約を交わしておくことで、認知症などにより判断能力が低下した場合に、任意高見受託者に財産管理を任せることができる制度です。

この制度を利用することで、ご自身が信頼できる者を後見人として指名することができます。また、通院する医療機関をどこにするのか、施設に入居する場合にどこにするのかなどを含めて、任意後見人に依頼したい事項をあらかじめ細かく設定することができます。不動産オーナーにとっても、物件の管理方法などについて細かく定めることも可能です。

任意後見制度とよく比較される制度として、法定後見(成年後見)制度があります。

これは、実際に判断能力が低下した場合に、四親等内の親族などが家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が後見人を選びます。そのため、ご自身が希望する者が後見人に就任するとは限りません。不動産オーナーの場合、後見業務が複雑多岐にわたることから、申立人の希望にかかわらず、裁判所が選んだ弁護士や司法書士などの外部の専門家が後見人に就任することが考えられます。また、後見業務は法律上様々な制約があるため、自由度は限定的です。不動産の売却なども簡単に行えるわけではございません。

弁護士法人美咲総合法律税務事務所ができること

不動産オーナーは、認知症対策や相続税対策、「争族」対策など、あらゆる対策が必要となってきます。これをご自身だけで行おうとするのは、かなり大変です。

弁護士法人美咲総合法律税務事務所は、家族関係や財産状況などを分析し、適切な相続対策をご提案し、実行いたします。

まずはお気軽にお問い合わせください。

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